フランスの料理店における酒蔵との付き合い方とブランディング
ユネスコ無形文化遺産に登録された「フランス美食術」は、家族や恋人との料理とお酒のペアリングを楽しむ食卓の中で、会話を大切にし、人生にとって最も大切な時を共有するための社会的慣習が認められたのです。食中酒の文化を持つフランス人にとってお酒は、料理と同等に良し悪しが重要なのです。この良し悪しは、単に機能的な美味しさを意味しているわけではありません。時間や対価を払ってでも手にしたいと思える”価値”であり、信頼や信用を得ている好ましい状態を指します。
この“価値”のことを専門用語では「ブランド」と呼び、フランス人は自分の価値も含めて「ブランド」を大切にします。例えば、料理の上手い頼りになるお母さんは、いつも美味しい家庭料理で健康管理をしてくれ、家族を幸せにしてくれる「ブランド価値」があります。だから愛されるのです。よく言語氾濫により「ブランド」は商品名などのような固有名詞と誤解されますが、本質的な「ブランド価値」を理解することは日本人にも難しくはありません。
フランスのレストランでは、料理を注文する時、もしくは注文した後、必ずソムリエにお酒の相談をします。フランスのソムリエは、優れたテイスティング技術を持ち、お酒の取扱いや管理を把握し、高いフランス語力と英語力での顧客対応能力で顧客に適切なお酒のサービスができる職務能力者に与えられる国家資格です。
そのためソムリエは、レストランのコンセプトやシェフの料理哲学、料理内容を理解した上で、予めこの酒はと想定する蔵元の醸造家(こちらも国家資格認定者)ときめ細かいコミュニケーションをします。特にレストランのハウス専用酒などの特別醸造酒の開発には、充分な相互理解と共同開発環境の総指揮車なのです。日本酒をフランスにつなぐためには「適切な情報の提供」「きちんとした品質の担保」「価値を確実に体験できる仕組み」が不可欠です。「ブランド価値」は密接なコミュニケーションから醸成されるのです。
またフランスの料理店では、料理とお酒のペアリングを成功するために、予め料理に対して顧客に勧めるワインと同じワインでソースを作ります。日本酒も同じ使われ方をするのです。ですから酒蔵も、どのような料理のソースに併せると良いのか検討し、和食の酒蒸しや、煎り酒などの調理法を参考に、例えば牡蠣の出汁と合わせたソースなどと、シェフと話し合える準備が必要です。フランス人の価値観は「つくる責任。食べる責任。」を重視するのです。