ワインと紫外線
紫外線はワインの大敵
太陽の光に含まれる紫外線や赤外線には、物質を破壊する力があります。特に紫外線は力が強く、窓際に置いた本や写真が退色したり、日光を長期間浴びたゴムが劣化するのは、紫外線の影響によるものです。人が日焼けをするのも、この紫外線によるもので肌がメイラード反応を起こし老化の原因ともなります。紫外線はワインにも大敵です。色や味わいを変化させてしまうのです。
メイラード反応は、ステーキを焼くと香ばしい色と匂いになる時などに見られる、糖とアミノ化合物が結合してメラノイジンを生み出す反応のことです。ワインに光が当たり続けると還元臭がすると言われますが、ステーキの香ばしい匂いがワインの焼けたような臭いの原因でメーラード反応によるものです。還元臭は揮発性硫黄化合物によるものでメーラード反応の副反応になるストレッカー分解により生成される報告があります。アンチエイジング医学では、メラノイジンはコラーゲンのような高寿命タンパク質を変性し、老化を進行させることが明らかになっています。メイラード反応は加熱によっても紫外線によっても進行し、ワインに含有する色素も変性してしまうのです。
紫外線によるワインの劣化についての実証実験・フィラディス実験シリーズより
紫外線は、室内の蛍光灯の光にも人には害を与えない量が含まれています。蛍光灯は、蛍光管の内側で人工的に紫外線を作り出し、蛍光物質がそれを可視光線に変えているのです。人よりデリケートなワインにとっては無害であるとは言えません。紫外線の性質は、黒ガラスの方が紫外線を遮断して通さず、透明ガラスほど紫外線を通します。つまり紫外線が与える影響は、ボトルガラスの色が濃い、薄いで大きく変化します。
実証実験では、同じワインでも光の有無によってどういった変化があるのか?また同じ光を受けた場合、「ワインの色」「ボトルガラスの色」でどれくらいの違いがあるのか?に焦点をあてました。
実験概要
6ヶ月間、紫外線の当たる場所と、蛍光灯の光も受けないような場所に、それぞれ下記の5アイテムを置いて「外観」「香り」「味わい」「総合評価」の基準で評価しました。評価は〇→同じ、△→劣化、×→大きく劣化という基準です。
試験に用いたワイン
- クレマン
N.V. Cremant de Loire Cuvee / St. Gilles Dutertre(緑ガラス) - 白
2017 Caprice de Clementine Blanc / Ch. Les Valentines(透明ガラス)
2016 Chardonnay Closeris des Lys / Antugnac(緑がかった透明ガラス) - 赤
2017 Dolcetto d’Alba / Giacomo Grimaldi(黒ガラス)
2015 Freakshow Cabernet Sauvignon / Michael David(黒ガラス)
実験結果
クレマン
N.V. Cremant de Loire Cuvee / St. Gilles Dutertre(緑ガラス)
外観 | △ | 泡立ちが弱くなり、色が濃くなる |
香り | × | フレッシュさが消え、状態として進んだ香り、ネガティブな香りが感じられた |
味わい | × | テクスチャーがゆるやかになり、まったりと口に残る印象 |
総合 | × | 濁った印象で味わいのバランスが崩れている。美味しいとは言えない |
白
2017 Caprice de Clementine Blanc / Ch. Les Valentines(透明ガラス)
外観 | × | もっとも影響が大きく、完全に色が抜けてしまっている |
香り | × | 影響が大きく、よどんでおり、腐った果実や獣臭がする |
味わい | × | 果実味が抜けてしまっている。フラットな味わいになり、薄っぺらい |
総合 | × | 全ての要素で影響が大きく、薄く、弱いものになってしまっている |
2016 Chardonnay Closeris des Lys / Antugnac(緑がかった透明ガラス)
外観 | △ | 薄くなっている |
香り | × | 淀んでいて、還元香がする |
味わい | △ | 果実味が弱くなり、酸を強く感じる。強い苦みがアフターに続く |
総合 | × | 明確に違いがあり、全体として要素が薄くなっている |
赤
2017 Dolcetto d’Alba / Giacomo Grimaldi(黒ガラス)
外観 | △ | 若干、色が薄くなっている |
香り | △ | 若干香りが広がらず、雑味を感じる |
味わい | △ | 果実味が弱くなり、酸を強く感じる |
総合 | △ | 白程ではないが全ての要素に違いがある |
2015 Freakshow Cabernet Sauvignon / Michael David(黒ガラス)
外観 | 〇 | 違いが極めて微小 |
香り | △ | 果実香が落ち、落ち着いた印象。わずかに酢の香り |
味わい | △ | 果実味が落ちて、タンニンが目立つ |
総合 | △ | 色以外の要素に違いがある |
※今回最も色の変化が見られた 2017 Caprice de Clementine Blanc / Ch. Les Valentines
まとめ
今回の実証実験では、香り、味わいに関してはどのワインも影響を受けており、紫外線の侵入を許せば許す程、果実香も変化していきます。味わいにおいては紫外線により果実味が弱くなる傾向にあり、酸が立ちやすく、テクスチャーが緩くなりました。
これまでワインはpHが低く、アミノ酸やタンパク質の含有量が比較的低いためメイラード反応はそれほど重要視されてはいませんでした。しかし糖分の添加を行うスパークリングワインや最近のナチュラルワインのブームを背景にメイラード反応がより生じやすい環境が増加傾向にあります。ワインボトルにできるだけ紫外線が当たらないような工夫をするのが好ましいでしょう。